会計は楽しい!世界史と共に豆知識を学べる本!
皆さんは「会計」という言葉についてどのようなイメージを持っていますか?
- 簿記とか全くわからない
- 経理・財務職の人しか要らない知識でしょ
という方も多いかと思います。
確かに会計には専門的な知識が必要です。
ですが、経理・財務担当者以外のビジネスパーソンに必要なのは細かい処理を学ぶことではないと思っています。
むしろ「なぜそのルールや仕組みが存在するのか」ということを知ることが大事だと思います。
今回紹介する本は会計について歴史的に学べる本となっていますので、上記のことを理解するのに役立つでしょう。
会計の勉強はいわゆる細かい計算処理や手続きが多く、退屈だと感じる人もいるかと思います。
ですが、
- 簿記がイタリアで誕生したということ
- 減価償却が鉄道会社から始まったということ
を知ることは教養を深めるという意味で楽しいはずです。
世の中の会計というルールがどのように生まれたのかを知ることで、新たな発見や教養を得ることができると思います。
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語
今回紹介する本は
会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語
です。
この本は
- 「簿記がどのようにしてうまれたのか」
- 「今の会計になっていった歴史的な流れ」
ということが物語形式で書かれています。
簿記の詳しい知識を解説する本ではなく、会計を中心とした世界史の物語が書かれた本です。
そのため、簿記を勉強する本というよりは、教養を得るための本という位置づけかと思います。
簿記の知識がなくても楽しめる内容になっていますので、身構えることなく読み進めることができます。
また、簿記を持っている人にとっては、
- なぜ減価償却という概念が生まれたのか
- 貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書をなぜ作成するようになったのか
ということについても学べる内容になっています。
会計ルールの誕生エピソードや人物秘話についてわかりやすく語られているので、「好奇心と共に会計を理解する」ことが可能になっています。
この本の構成は3部構成で以下のようになっています。
-
この本の構成
- 簿記と会社の誕生
- 財務会計の歴史
- 管理会計のファイナンス
となっています。
これを見ると難しそうだと思われる方もいるかと思いますが、本当にそんなことはありません。
人間ドラマや当時の社会情勢などわかりやすい文体で描かれているのでサンプルを読んでみて判断するのもいいかもしれません。
では各章について要約していきたいと思います。
第1部:簿記と会社の誕生
第1部ではイタリアからオランダを舞台にして、どのような流れで「簿記」というものが生まれ、使用されるようになっていったのかということについて語られています。
実はレオナルド・ダ・ヴィンチが簿記の発祥に関わっていたということを知っていましたか?
芸術家と簿記は全く住む世界が違うかもしれませんが、実は深く関わっていたのです。
また、当時はイタリアが世界の経済の中心といってもいい時代であり、この土地で「銀行」というビジネスが生まれます。
例えば、東方の品々をヨーロッパへと運ぶイタリア商人たちは「勇気ある者」という意味で「リズカーレ」と呼ばれていました。
このリズカーレという言葉が次第に「リスク」というお馴染みの言葉になっていったのです。
そして、このリズカーレを助けるべく生まれたサービスがバンコ(=銀行)です。
常にお金を持ち歩く必要がないキャッシュレスの先駆けとも言える銀行はイタリアから生まれました。
ちなみに銀行といえばどのようなビジネスで収益を上げているかご存知ですか?
多くの人がわかるかと思いますが、「手数料」と「融資の利息」です。
手数料ビジネスは当時から存在しており、荒稼ぎしていた銀行もあるみたいですよ。
ですが、融資については及び腰のようでした。
なぜならキリスト教が利息を取るのを禁止していたから。
これはびっくりですよね。
今では利子を取ることで稼ぐのは基本ですから当時の銀行は大変だったと思います。
もちろん当時の銀行も利息を取りたい気持ちはありました。
そして実は取っていました。
苦し紛れの理屈をこしらえて。
その理屈が、「融資の代わりに受け取るお金(いわゆる利息)は、それを他のことに使えば得られたであろう利益」だということです。
かなり苦しい言い訳ですがなんとかして利息を取ってやろうという気持ちを感じますよね。
そしてこのお金のことを「インテレッセ」と呼んでいました。
このインテレッセが【interest(利息)】の語源です。
なんと【interest】は利息を偽装する屁理屈から生まれたのです。
このように簿記の誕生から銀行の誕生といった流れを世界史の出来事、当時の情勢、世界の絵画から紐解いていく形式でこの本は進んでいきます。
個人的に続きが気になって仕方ないくらい読んでいて面白かったです。
第1部ではイタリアのルネサンスからオランダの覇権時代まで語られています。
第2部:財務会計の歴史
第2部では主にイギリスを舞台にして管理会計がどのような流れで生まれていったのかについて書かれています。
この時代のイギリスは世界の経済の中心になっていきます。
そして、イギリスが世界の経済の中心になっていったきっかけが「蒸気機関」という歴史的な発明です。
当時のエネルギー源は石炭でした。
石炭は圧倒的な火力を持っており、日常の様々な場面で使用され始めていました。
ただ、石炭を採るための炭鉱では、地下水がとめどなく湧き出てくるため排出する必要があったのです。
これを解決する装置が「蒸気機関」でした。
蒸気機関はもともと石炭を採るための、炭鉱の排水ポンプ用に開発されたのです。
そしてこの「蒸気機関」という発明は据え付け型の動力装置として工場にも導入されていきます。
ここからイギリスの「産業革命」が始まっていくのです。
この産業革命の最大の発明が「蒸気機関車」です。
リバプールからマンチェスターを結ぶ蒸気機関車は歴史的な発明でした。
ここまででいわゆる世界史的な話を書いてきましたが、ここに「会計」はどのように絡んでいたのでしょうか。
実は、蒸気機関車は開業までの初期投資があまりにも大きいという問題がありました。
「車両代」や「土地」「レール」「駅舎」などの固定資産をすべて揃えないと事業を始められません。
つまり、鉄道を開業するためには「どれだけの固定資産が必要なのか」について予算を含む事業計画を作ったうえで、必要となる巨額の資金を調達する必要があったのです。
そしてこの「調達・運用」のノウハウは「財務会計」の歴史に大きな影響を与えました。
また、遠隔地に存在する駅や列車の運行ダイヤを管理するノウハウは「管理会計」に受け継がれていったのです。
このように第2部では蒸気機関車を持つ「鉄道会社」を中心にして物語が進んでいきます。
もう一つ鉄道会社から生まれたのが「減価償却」です。
鉄道会社はとにかく固定資産が多いため、初期投資をした期は大幅な赤字になりますが、投資をしない期は黒字になります。
この状況を株主側から見ると、「いつの時期に株主だったか」で配当に不公平が生じることになります。
そのため、もうけを平準化して安定的に配当できる方法はないかということを鉄道会社は考えました。
そしてそこから生まれたのが「減価償却」です。
費用を分割して計上することで、どの期でも安定して配当できるようになったのです。
このような流れで第2部はイギリスから現代まで進んでいきます。
インターネットと国際会計基準が登場する現代まで一気に進んでいくのですが、どの時代も読みやすく、この章もすらすらと読み進めることができます。
この章では、もともと「自分のために」行われていた会計が「他人のため」に行われるようになっていった流れがメインで書かれているように思いました。
特に経理職の方にとっては、自分のやっている仕事がどのような流れで今につながってきたのかがわかる内容になっているので興味深いと感じることも多いのではないでしょうか。
第3部:管理会計とファイナンス
第3部の舞台はアメリカを中心とする現代です。
この章では独立を果たしたアメリカの鉄道会社で「連結決算」が始まったことから物語が始まります。
やはり近代から現代にかけて新たな会計基準の誕生のきっかけは鉄道会社なんですね。
そして、またまた鉄道会社から「原価計算」という概念が生まれました。
大量生産が可能になった時代では「熟練の職人が1人で作り上げる」スタイルではなく、「複数の作業工が流れ作業を行う」工場が誕生していきます。
ここに原価計算を取り入れることで正確に原価と利益を把握することができるようになっていきました。
また、この章では「石炭」から「石油」に世界のエネルギー資源が変わっていった流れについても解説されています。
石油王と言えば、ジョン・ロックフェラーですが、彼は若き日には「簿記係」だったのです。
簿記を学んでいたからこそ超巨大企業を作り上げることが可能だったのですね。
また、現代に時代が進むにつれて今の私たちの生活にかかわるものも会計に絡んでくるようになります。
「コカ・コーラ」や「ルイ・アームストロング」「ビートルズ」など馴染みのある名前も登場してくるようになるので楽しみながら読み進めることができます。
正直に言うとこの章は今の会計ルールの誕生について語られているので1章と2章と比べるとやや理解するのが難しいところもあります。
ただ、歴史的な流れを読み取ることは可能なので「こんなルールがこんな流れで生まれたんだな」と理解することができます。
「会計の世界史」の感想・レビュー
この本は新しい教養を得たいと考えている方にはぴったりの本だと思います。
簿記の知識がなくても会計の歴史についてすらすら読み進めることができるので途中で挫折する可能性は低いと思いました。
また、現在の会計ルールがどのような理由で誕生したのかについて学ぶことができるので経理職の方にとっては自分のやっている仕事に意味を見出すこともできるのではないでしょうか。
ちなみに私は世界史を学生時代に学んだことはないのですが、この本は詳しい世界史の知識がなくてもわかるようになっています。
各パートの最後に人物紹介や単語の解説ページがあるので、もしわからない単語があってもすぐに理解することが可能です。
ですが、調べなくても問題ありません。
人物については物語の登場人物として書かれているだけで、あくまでメインテーマは「会計」の歴史です。
そのため、特に人物に意識することはなくても大丈夫だと思います。
もちろん知っている人物の名前もあり、「この人物・企業がこの会計ルールとつながっているのか!」という新たな視点を得ることができます。
個人的には会計についてアレルギーを持っている方にぜひ読んでほしい気持ちがあります。
この本を読めば、
- どのような視点で財務諸表を読めばいいのかわかる
- 簿記に対する心理的な壁を取り払うこともできる
と思います。
また、経理・財務職の方や目指している人にとっても本当にお勧めです。
自分の仕事に誇りを持つことができるようになりますし、何より話のネタにぴったりです。
仕事の話に絡めてこの本で得た知識を披露すると場が盛り上がるかもしれません。
ぜひ読んでいただければと思います。